『53歳Iさん。従姉にあたる女性ですが、うなじあたりが凝るので漢方薬でいいのはないかとの相談でした。』
何種類か漢方薬を手持ちにある人なので、とりあえず『葛根湯(カッコントウ)』を飲んでもらいましたが、全く効かないようでした。
「漢方薬も当たりはずれがあるのかしら?」
と失礼なことをいうので、漢方薬の真価を知ってもらうためにも、一度じっくり話を聞いてみることにしました。
普段からみぞおちのあたりが重苦しく、つかえる感じがするので、内視鏡検査をしてみたが、異常なしと言うので食生活を聞いてみると、「主人は夜遅く帰宅するので、それまで食事をしないで、一緒に食事をとる習慣が続いている。」といいます。
そこで「ご主人にみぞおちを軽く押してもらってどんな感じがするか、肩の凝りの部分を指で押してもらってみて」と依頼しました。「みぞおちを押されると硬く張っていて、苦しい(心下痞硬という所見です)。肩こりはうなじのあたりよりもう少し下が張るんだよね。」との返事でした。
そこで、『半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)』を飲んでもらうことにしました。この薬は実際には胃薬として使うことが多いのですが、食べすぎの人や、寝る前に飲食する人の胃症状の他に、「肩こり」にも応用することがあります。
これが実によく効いてくれて、「今度の肩こりの漢方薬はよく効くね(そうじゃないんですけど…)。最初からこれを出してくれればいいのに(かわいくないな…)」と電話をいただきました。
「うなじの凝り」に「葛根」が有効なためにこれが配合された『葛根湯』がよく使われるのですが、実はこの「凝り」は筋肉疲労に有効なのであって、そうでない凝りにはあまり効かないことも多いです。
『半夏瀉心湯』は後頭部の下、肩甲骨の中央より少し上の凝りに有効と言われています。また、肩甲骨の中央やその周辺の凝りには「柴胡(サイコ)剤」が有効で、更年期の肩こりにはこの種の漢方薬が使われていて、女性の肩こりの5~6割はこのタイプです。
肩こりと漢方薬の関連は奥が深いのですが、一度異性の方(同性ではなく)に凝りの箇所を押してもらって、ご自分の肩こりのポイントを把握するのもよいのでは…。
『57歳Hさん。とにかく多彩な症状(後述)があり、内科で安定剤を処方してもらっている。飲むと眠れるが、漢方薬を飲んでみてはと知人に勧められて来院。』
Hさんの話によると、昨年から、娘の結婚のことでいろいろと心を痛め、寒気がしたり、気分が変になったとの事でした。
毎日眠れなくなり、精神科で「抗うつ薬」を三ヶ月処方され、娘の結婚とともに調子が良くなるやいなや、夫が病気となり、心身ともに疲れたら、また具合が悪くなりました。
特に胃が悪く、胸やけがして、胃腸の精密検査を受けたところ、特に異常なしでした。
最近はカーッと体が熱くなり、汗が出る。しばらくするとスーッとひいて逆に寒くなる。精神的なことで気を遣うと肩がこって仕方がないようです。
一週間前に、娘の誕生日で外食をした際、フランス料理で自分は嫌いなのですが、我慢して食べたらしく、それ以来、胃がむかついて苦しいといいます。
話を聞いていると、一部は更年期障害のような症状ですが、どうもHさんは生来神経質で、生真面目な性格に感じました。胃腸虚弱な方のようでしたので、『香蘇散(コウソサン)』を手始めに内服してもらいました。
2週間後、飲んでいると気分が良いとの事でしたので、他の漢方薬は併用せずに二ヶ月飲んでもらいました。
すると「自分でも気分が明るくなった感じがします。体全体?が調子いいんですよ。」との事。その後、半年近く飲んでいただきましたが、調子がいいというので薬を中止しました。
『香蘇散』は以前も紹介したことがありますが、「気」を発散させる作用があります。
元来は、『葛根湯(カッコントウ)』などはもちろん飲めないような胃腸の弱い方向けの感冒薬として用いられたのですが、Hさんのような「血の道症」「不定愁訴」などで普段から胃が弱い方には、とりあえず飲んでもらう価値は十分ある漢方薬です。
『59歳Sさん。花粉症で薬局にて『小青竜湯(ショウセイリュウトウ)』を購入して飲んでいるが効かないとの事。別な漢方薬?を希望して来院。』
水様性の鼻汁・くしゃみを主訴とし、目のかゆみなどを伴うときに『小青竜湯』を用いることはあります。もちろん、よく効いてくれる方もいらっしゃいますが、Sさんのように全くといってもいいくらいに効かない方もいるのも事実です。
Sさんは来院時に「貧血はないのに顔色がすぐれず、顔がむくむ。『小青竜湯』を飲むと、胃が荒れる?んだよね。」と言って、自分は昔から胃下垂だとおっしゃいます。
実はこの言葉は重要で『小青竜湯』には「麻黄(マオウ)」という生薬が含まれているので胃腸虚弱な方には避けた方がよいのです。
そこで、Sさんには『小青竜湯』に似ていますが虚弱者向けの『苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ)』を飲んでもらうことにしました。
2週間後、「飲んですぐにくしゃみが減ったみたい。続けて飲んでいるが、症状が軽くなって助かる。」との事でした。
「時々、くらっとするめまいがあって地震かなという事があるんだよね。脳神経外科行ってみたけど大丈夫だって。」と言うので、『真武湯(シンブトウ)』も昼一回追加して飲んでもらったところ、「とても手足が温まっていいわ。」とおしゃっていました。以後も好調で、春先~初夏にかけて毎年薬を取りに来ていただいています。
『苓甘姜味辛夏仁湯』は、手足が冷たく、貧血様の顔をしているどちらかというと虚弱なタイプの方には有効です。花粉症ときたら『小青竜湯』だけではありませんから、ご自分にあった薬を選んでもらってはいかがでしょうか?
『55歳女性Nさん。52歳頃から内科にて高血圧を指摘され、降圧薬を服用したが、ふらつきがみられ、中止。53歳で閉経した後から血圧が不安定となり、頭痛・肩こり・のぼせの症状が出現したとの事。来院時に一度循環器科を受診することを勧めるが、本人が降圧薬の服用を強く希望せず、漢方薬を試したい希望あり。』
Nさんの当院での初診時の血圧は156/94mmHg。赤ら顔で肥満ぎみな方で、「とにかく、のぼせやすい。毎日、排便はあるがスッキリ感がない。」と言いながら、家族や職場への不満を延々と訴えていらっしゃいました。
「胸脇苦満(キョウキョウクマン)」(詳細は以前の号)がしっかりと認められ、下腹部のハリ、ストレスも考慮し、まずは『大柴胡湯(ダイサイコトウ)』と『桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)』を4週間投与しました。
「胸脇苦満」はやや軽減しましたが、肝心の自覚症状は変わりません。そこで、「のぼせ」にも注目して、『三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)』に変更してみることにしました。
変更して2日目に多量の排便があり、「顔のほてりが軽くなり、つかえがスーッととれていく感じがした。」との事でした。4週間の服用で血圧もほぼ正常となり、諸症状も軽減したようです。
更年期の高血圧症の中には、しばしば心気症傾向が強く、降圧薬だけではコントロールが困難なばかりか、逆にその薬の副作用に悩まされることもあります。
一般的には「柴胡(サイコ)」という生薬が配合されている漢方薬が有効ですが、症状によっては「お血(ケツ)」(詳細は以前の号)を改善する薬も併用したりします。
Nさんの場合は、『桂枝茯苓丸』という「お血」の改善薬の代表選手を使いましたが、有効ではなく、「柴胡」に加えて「黄連(オウレン)」という「清熱薬」が配合された『三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)』が効果的でした。
このような薬の加減は個人差があり、難しい点もあるのですが、いずれにせよ「柴胡」が配合された漢方薬は、更年期にみられる「動揺性」高血圧には使ってみる価値はあるかと思われます。
『25歳Mさん女性。学生時代から苦にならない程度の月経痛あり。仕事を始めてから対人関係のストレスも強く、また職場の室温が異常に低く、冷えて月経痛も強くなった。
特に月経2日前~開始2日目まで腰痛や下腹痛が強く、全身にむくみが出る。胃がむかむかして食べたくない。人ごみでは気持ち悪くなる。突き上げるように吐き気がして、生唾が出てくる。3ヶ月間で体重は48㎏から45㎏にやせた。最近は手足の冷えが気になり、睡眠も不良。食欲もなく無理して食べているとの事。漢方治療を希望して来院。』
ストレスという言葉は漢方医学にはありません。
しかし、ストレスとからだの変調との関係については東洋医学では独特の考え方にもとづいて古くから取り組んできました。
いつもお話しているように身体の状態(証)を捉えることが大切です。例えば、胃腸が丈夫である、疲れやすい、華奢な体格など細かい要素を考えて適切な処方を決定します。
Mさんは「冷え・むくみ」の症状のみから考慮すると、前回お話した『当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)』が有効と一見思われるのですが、新陳代謝が衰えて冷えが著しい状態になっているうえに、生唾が止まらない(東洋医学では「喜唾(キダ)」といいます)点に注目して、まず「人参」が含まれている『人参湯(ニンジントウ)』を処方してみました。
4週間後、生唾も出なくなり、食欲も出できたようなので、もう一ヶ月飲んでもらうことにしました。その後の月経痛は一進一退であるものの、軽くなっているようでした。むくみはほとんどなく、人混みに出ても悪心は起こらなくなったとの事です。
ストレスによって起こる症状はいろいろであり一律に述べることはできません。長期間になる可能性も大きいです。
Mさんのように一度消化器症状を呈してしまった方はこちらを立て直す必要があります。「急がば回れ」ではないのですが、目先の「冷え」よりも「生唾」を伴う食欲不振が今回のキーワードです。
漢方の診断は「望(ボウ)・聞(ブン)・問(モン)・切(セツ)」という四診で行いますが、「望診」はその中でも最も重要な診断法です。
患者さんを診察室に呼び入れたときの反応の仕方、姿勢、動作、立ち姿、顔色、皮膚の状態などを観察するとともに、全体的なイメージをよく見るわけです。
じろじろ見られる患者さん側からはちょっと恥ずかしいかもしれませんが、漢方治療をするには若い女性であろうと「なめるように全身をくまなく観察」せざるをえません(誤解のないように)。
この「望診」により、とくに女性三大漢方薬(『当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)』『加味逍遥散(カミショウヨウサン)』『桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)』)はほぼ決まるといっても過言ではありません。
「待てど暮らせど来ぬひとを宵待草のやるせなさ」とうたわれた竹久夢二の、有名なあの絵(立田姫?)がまさに『当帰芍薬散』の「証(ショウ)」であるため、漢方医はこれを「当芍(トウシャク)美人」と呼び、この薬を使用する目標としました。
すなわち、色白で、顔は面長、柳腰で立ち姿はすっきり、声は優しく耳当たりが心地よく、しぐさがおっとりしている、「ちょっと手を差しのべてあげたくなる日本美人」と漢方医の大家が称したそうですが、こういったイメージが『当帰芍薬散』にぴったりあう「証」なのです。
『当帰芍薬散』は女性の聖薬といわれ、少し虚弱な女性の身体を温め、「水毒(スイドク)」(体内の水のバランスが悪い状態)をとり、月経を整え、痛みを去り、受胎を安んじるといわれます。
「水毒」の症状には、頭痛・めまい・嘔気などがみられることがよくありますから、「当芍美人」は実際にフラフラすることが多いのでしょう。また、この薬は「冷え症」の中でもむくみが出やすい方にも有効です。
みなさんは『当帰芍薬散』の「証」ですか?このコラムを読まれた後は、外来に「自称、当芍美人」が多く来られるかもしれません(笑)。
風邪を発症することを「かぜをひく」といいますが、「かぜになった」とはあまりいいませんね。よく考えれば、妙な言葉だと思いませんか?
普通「胃潰瘍になった」「怪我をした」といいます。
驚くべきことに自分でも気づかないうちに、皆さんは漢方医学的な発想をしているのです。風に乗って、もともと外にあった「邪」が体内に侵入することを「邪を引っ張り込む」ということで「風邪をひく」と表現しているのです。
一般に風邪をひきやすい人は、基本的な体力が不足していて、すぐに疲れる「気虚(キキョ)」(詳細は前号参照)の傾向があります。
すなわち、自己免疫力が弱く、風邪だけでなく、いろいろな外からの邪による病気(様々な感染症)にかかりやすいとされます。このような人は、常日頃から漢方薬などを服用して、精神・身体的に丈夫になっておくことも大切です。
漢方医学的にはいろいろな考え方がありますが、まずは、「人参(ニンジン)」「黄耆(ジンギ)」(あわせて「参耆(ジンギ)剤」といいます)を含んでいる漢方薬で体力を補ってあげることをよくします。
虚弱ぎみで胃腸があまり強くない場合によく用いる『補中益気湯(ホチュウエッキトウ)』は、その代表格です。風邪症状は軽いが何度も繰り返し、あわせて精神不安・不眠がみられるときは『柴胡桂枝湯(サイコケイイシトウ)』も併用したりもします。
また、子供の頃から中耳炎や扁桃腺炎をよくおこして、副鼻腔炎(ちくのう)で耳鼻科通いをしていた経験があり、成人してからも、ちょっとしたことで風邪をひいていつもグズグズするといったタイプには『柴胡清肝湯(サイコセイカントウ)』などを普段から服用されると、風邪がひきにくくなることは漢方医学的に知られています。
漫然と「かぜには『葛根湯(カッコントウ)』」をお飲みになっている方は、ご自分の体質にあった薬で「未病」(テレビのCMにも出ていますが)に対する策を講じてもいいのではないでしょうか?
こういう言葉を聞かなくなって久しいですが、古来、楽しく裕福な、夢のような暮らしができる理想郷として描かれているのが『桃源郷』です。
山中遠く、迷い込んだその地には桃の花が咲き乱れ、人々皆楽しく、憎み合わず、子供から老人まで共に助け合い、病気もなく長寿を受け入れ、生き生きと仕事をしているという世界のことです。まるで現代社会のパラドックスのようですが、漢方では、桃は長寿の食べ物とされています。
昔の人は桃はとても身体に良く、鬼のような人をおだやかにすると考えていました。
「桃太郎伝説」の中で、鬼(=邪悪なもの=病気)を退治してくれるのは、山から流れてくる桃の中から飛び出した桃太郎(=桃の種=「桃仁(トウニン)」)であり、子供に恵まれなかった夫婦(=高齢不妊症)が、桃を食したために(=「お血(オケツ)」が改善)、子供ができたという説は漢方医学を基礎としたありそうな話なのです。
「桃仁」は「お血」(詳細は前号を参照)を改善(=血液の滞りを改善)する効果をもつ生薬の代表選手であり、それを配合した『桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)』は最も強い「お血」対策の漢方薬です。
この物語は、「桃仁」のもつ強い「お血」を改善する効果により、長期不妊の夫婦が元気な男の子を授かるというストーリーと解釈すれば、昔、邪鬼や動物の霊に憑かれたように考えられ、古書にも「狂人の如く」と記されていますが、まさにそのようにみえた月経痛でひどく苦しむ長期不妊(現代医学では子宮内膜症)の患者を治療(=鬼退治)できたのは、まさしく桃太郎(=「桃仁」)だったのでしょう。
このように、桃から生まれた「桃仁」が女性の疾患の治療では欠かすことのできない「お血」対策の生薬であることを知ると、漢方薬にも少し親しみが持てるのではないでしょうか
過日の「行政刷新会議」にて「漢方製剤の保険外し」が答申されました。この会議側の論理は「薬局・薬店でも漢方薬は買えるものである」との主張のようであります。
漢方製剤の保険外し問題は、17年前にも議論されたことがありましたが、150万人の「反対署名」を当時の厚生省に提出し、幸いにも保険外しを逃れました。
今回も日本東洋医学会は、 「医師が処方する漢方薬と一般用医薬品で販売される漢方薬は同じではない」 「西洋医学と漢方薬の併用によってがん患者をはじめ多くの難病治療が可能になっている」 「漢方治療を受けているのは女性が多い(約60%)」 「漢方には専門医制度がある」 といった点を強調し、今回の答申には徹底的に反対する意思表明をしております。
西洋医学は日々進歩していますが、必然的に細分化していく道をたどる性質を持っております。
しかし、私達人間は決して機械部品の寄せ集めではありません。心身両面から総合的に複数の不具合を同時に治す考え方と手段をもつ漢方医学の価値を知ることは、西洋医学を縦糸とすれば、漢方医学は横糸のようなもので、両者の強調によって布が織られるがごとく医療の幅を拡大する有効な手段となります。
漢方は今や世界中で注目され、多くの医師たちが日常の診療で使うようになりました。もちろん、お隣の中国では古くから鍼灸とともに様々な動・植物や鉱物を加工して、薬として病気を治療していました。
初めはドクダミやゲンノウショウコ、ニンジンなどを乾燥させ、細かく砕いて服用していましたが、それぞれの薬草は独特の有効成分をもっており、治療できる症状や病気の種類が異なるので、そのうち薬草を様々に組み合わせて用いるようになりました。
病気の本質を治療するとともに表面に出てくる症状もいっしょに解消するために2種類以上の薬草を混合して薬として形づくられてから、少しずつ改良され、自然淘汰されて現在の漢方薬となりました。
ですから、多くの部分を人が人工的に作って数少ない人を対象に試験的に使ってみて、安全で効果的であると判定された「単一合成剤」の最新西洋医学と、自然のものをいろいろと組み合わせて非常に長い歴史の中で、膨大な数の人に使われて、安全性と有効性がその歴史の中で証明されて現在まで生き残った「自然複合成分混合剤」の漢方薬では、全く別の範疇の治療薬ともいえるでしょう。
西洋薬でも漢方薬でも、目の前の患者にどちらを用いるかは、今までは医師の裁量でした。しかし、現在は病気の治療は患者が主役という「クライエント中心療法」という考え方がしだいに浸透しています。
病気の診療をひとつのドラマとするならば、どんな治療でもあくまでもその主役は患者自身であり、医師は脇役として主役をもり立てなければなりません。当然、治療法の選択の最終決定権は患者側にあるわけです。
このような背景から、もし患者が漢方を使った治療を選択したい場合に、これからの時代はどのような医療環境を患者に提供してくれるのでしょうか。
漢方医学と西洋医学の強調によって世界に類のない医療展開を期待していた者からは、今回の答申は実際の医療の現状とわが国の誇る「漢方医学」の真価を全く理解していないと言わざるをえません。
「漢方を推進する」とマニフェストに掲げていた点はどう解釈すればよいのか疑問に感じるのは私だけでしょうか。
『48歳主婦Mさん。2年程前から手から肘、足首に赤い湿疹が出現し、ひどく痒い。軟膏をつけているがあまり有効ではない。手のひらは赤くゴワゴワした感じになり、恥かしくて人前に出せない。友人に聞いて漢方薬を試したいとの希望で当院に来院。』
「漢方薬で治したい」という場合は他の症状を聞かなければなりません。まず、生理の周期が狂い始めており、1年に5回位に減っており、4ヶ月もあいたときもあります。その代わりに生理痛がひどく、ときどきのぼせて汗が吹き出るし、頭痛・便秘もあるとの事。足の冷えは昔からあり、手足の湿疹は冬の方が多くなるようです。
生理のトラブルもあり、冬に悪化するというので、Mさんにはまず『温清飲(ウンセイイン)』を処方しました。この薬はいろいろな方に使ってよく効いている薬なのですが、いかんせん、とても苦いです。しかしながら、いつもお話するように効く方は案外飲んでくれるのが不思議な点です。
Mさんの場合には飲み始めて2週間で、手足の湿疹は消えました。それと共に、のぼせがずっと楽になったようでした。ところが、そのまま飲み続けていると、胃は重い感じがするとの事。
『温清飲』は『四物湯(シモツトウ)』と『黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)』を合わせた薬で、後者の薬は実証(詳しくは以前の号を)用のかなり強い薬です。Mさんはそれほど実証タイプではありません。
こういう場合は、西洋医学的には胃薬を飲んでもらいながら飲み続けてもらうこともありますが、『温清飲』の『黄連解毒湯』の成分を減らすという手段もあります。
そこで、『温清飲』をバラして、『四物湯』は通常の量で『黄連解毒湯』は反量に減らしてみました。この方法はうまく決まって、胃の調子は改善されて全体的に体調は良好になりました。漢方薬は生薬を合わせて作られていますから、こういう調整が可能なわけです。
その後は、Mさんの手足の湿疹と更年期障害的な症状は、ほぼ解決していますが、あとは顔のシミを何とかできないかと欲張っています。それには、もう少し時間がかかるのではないかと思います(笑)。