『34歳Mさん。風邪をひいて内科で感冒薬を処方されたが、咳がなかなか止まらない。寝汗が出て寝苦しいので、クーラー付けっぱなしにしている冷気のせいか?咳はさらにひどく、腹筋が痛い。食欲もなくつらい。授乳中ということで、当院に来院。授乳に影響がなくて安全な薬?を希望。』

  来院時、Mさんは咳き込むと、真っ赤な顔をしてとても辛そうでした。念のため、胸部レントゲンと血液検査を行いましたが、炎症反応も軽度で肺炎などの疑いもありません。

『麦門冬湯(バクモントウ)』に去痰薬を併用してみましたが、水っぽい痰が出て咳き込み、余計苦しくなってしまうとの事でした。また、知り合いからよく効く咳止め?(リン酸コデインらしい)をもらって、寝る前までに4回飲んでみても咳は一向に収まる気配はないようでした。

  単なる夏カゼもここまでくると東洋医学では「少陽病(ショウヨウビョウ)」というややこじれたステージに進行しています。そこで「みぞおちは勿論、肋間筋も腹筋も咳で響いて痛む」という点から『柴陥湯(サイカントウ)』を飲んでもらうことにしました。

  3日後、開口一番「咳が止まったせいでよく眠れました。」というので、数日続けて飲んでもらいましたが、「2~3日で少しずつ粘っこい痰が出るようになってかなり調子は良いです。」との事でした。

  『柴陥湯』は、「激しい咳」に効くことが多いのですが、直接「咳」そのものに効く生薬は含まれていません。しかし、Mさんの『柴陥湯』の効き方は完全に「鎮咳薬」でした。古典には「みぞおちを押すと痛みがある」ときに使うという腹証が記されていますが、激しい咳を伴うと、こういう状態になることはあるでしょう。

  日常診療で遭遇する「かぜ症候群」の中でも、「しつこい咳」には手を焼くことは多いです。このようなケースでも漢方薬が有効なことはしばしばあり、漢方薬の効き方には驚かされます。