『48歳Kさん。やせ型のおとなしそうな奥様で、ご主人の後ろに付き添うようにして来院。顔に生彩がなく、「お疲れのようですね」とご本人に問いかけると、ご主人が話をさえぎるように「疲れているとは思うのですが、いつもよく寝てばかりいる割には、アクビばかりするんですよ」。

もう一度、Kさん自身に症状を聞いてみると、「3ヶ月前より別に眠くもないのに生アクビがしょっちゅうでるようになり、その割には寝付けないです。身体は重だるいし、食後は胃が軽くもたれます。気持ちはイライラして落ち着きません」と申し訳なさそうに話してくれました。』

Kさんには『甘麦大棗湯(カンバクタイソウトウ)』を処方してみました。
3日目から生アクビの回数が減り、同時に重だるい症状が軽くなり、1ヶ月後には精神的な落ち着きが自身でも感じるとの事でした。

『甘麦大棗湯』は、「甘草(カンゾウ)・小麦(ショウバク)・大棗(タイソウ)」の3つの生薬のみで作られた漢方薬で、すべての生薬が甘い味がするという特徴があります。

甘い味の働きは、以前にもお話しましたが、「体の緊張をほぐしたり和らげる作用」と「潤して栄養をつける作用(滋養)」という二つの働きがあります。イライラしたときにケーキを食べる女性(笑)や、疲れると甘いものが欲しくなるのは皆さんも経験があると思います。

さて、アクビを東洋医学的に考えると、「こころ」に潤いがなくなりかつ緊張しているひとつの証拠です。

なんとか緊張をほぐそうとしている試みともいえます。『甘麦大棗湯』は、甘い味によって「こころ」に潤いをもたらし、緊張をほぐす作用がある漢方薬です。甘いものでストレスを緩和しようという人間の本能的な行動をうまく薬として取り入れた漢方薬といえましょう。

3ヶ月後、外来に来たKさんの位置が、いつの間にか、ご主人の前になっていたのは私の気のせいでしょうか?