『30歳Sさん女性。第一印象は「さわやか」な方ですが、主訴は不眠とうつ症状でした。そのため二ヶ月前から休職中。
眠れなくなったのは1年半前からで近くの内科にかかり、眠剤をもらいましたが、それでもよく眠れず、一年前から精神科にかかりました。
「うつ病」の診断で抗うつ剤と眠剤をもらっていますが、3時間位で目が覚めてしまい、その後追いかけられる夢や怖い夢を見て、朝起きたときから気分が滅入ってしまう毎日だといいます。友人の紹介で当院に来院。』

Sさんからお話を聞いても不眠の決定的な理由は出てきません。
「不眠」と「うつ」から離れて最初に記入された自覚症状の欄をみると、本人の「さわやかさ」とは逆に調子の悪い点(胸やけ・胃もたれ・便秘・頭痛・肩こり・むくみ・手足の冷えなど)が目につきます。

これだけ体調が悪くて「眠れない」といいながら、明るくさわやかに振舞っているのはなにか不自然です。まるで、更年期かと思えそうな調子の悪さです。

「寝る頃になるととても気分がふさいできてベッドでじっとしていると急に涙が出てきて止まらなくなる。しばらく泣いてから眠るという感じ。」という状態で、原因が何であれSさんは眠るのに四苦八苦していました。

まずは、そういう涙が出て止まらない状態に使うとよく効いてくれる『甘麦大棗湯(カンバクタイソウトウ)』と、それと同時に夢に見る内容があまりよくないようなので『抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)』を処方しました。

2週間たってSさんの反応はかなり良いものでした。
「お薬を飲んでから、頭の中がすっきりして寝る前にあれこれ考えなくなりました。最近は4時間眠れるようになりました。」と聞いて、4時間は決して眠れたとは思えないのですが、本人はニコニコして報告してくれました。

その後、数ヶ月して、お薬を取りにきたときは、
「最近7時間眠れています。」との事。

この症例は、私としては「できすぎ」でして、通常はもっと手こずるというのが正直な感想です。この両者の薬は、共に精神安定剤にはない独特の安定のさせ方をしてくれますが、つくづくこういう薬を作り出した先人の医師に感服するばかりです。