今回の患者さんは、「冷え」を主訴とする方です。

『28歳、Hさん、女性。とにかく手足が極端に冷たい。寒いときは体の芯から冷える。風邪をひくと悪寒がひどく全身が冷えて仕方がない。漢方薬が希望にて来院。』

Hさんは、実際に触ると本当に冷たい手足でした。このような方は、温める生薬を使わざるを得ません。「冷え」には表(体の表面)と裏(体の内部)がある話は以前しましたが、「悪寒」は「表寒」(表の冷え)のサインですから表を温める生薬を使えばよいのですが、Hさんは「体の心からの冷え」もあるので「裏寒」(裏の冷え)にも対応しないと症状は良くならないと考えました。

ただし、このような方に大切な問診事項があります。それは『冷えるとお腹が痛くなりませんか?』の一言です。この問診で私は当帰四逆加呉茱萸生姜湯[トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ]という舌を噛みそうな名の薬を処方しましたが、その後体がポカポカする感じがわかるとのことで、しばらく薬を続けてもらうことにしました。

この薬は、単なる「冷え」の薬ではありません。確かに体を温める生薬が配合されていますが、薬の構成を調べると実は建中湯[ケンチュウトウ]つまり「お中を建て直す」が基本骨格なのです。

この薬は「冷房が強い部屋にいると、お腹が痛くなる」人にも、よく処方しますし、こういう方は夏場でも「冷え」がつらいタイプに多くみられますね。

さて、「冷え」は以前からお話しているようにいろいろなパターンがあり、その状態に合った漢方薬を選ばなければなりません。ですから「○○さんが効いた漢方薬がほしい」と言って受診される方がいますが、これは間違いなのですね。

やはり、きちんと診察をしなければなりません。Hさんに『冷えるとお腹が痛くなりませんか?』の問いかけた理由はただ一つです。それは処方する薬を決めたいからです。

漢方医学の問診は余計なことみたいな事をたくさん聞きます。それは各々に漢方薬を決めるカギが隠されているからで、決して無駄な事を聞いているのではありません。漢方薬は生薬の寄せ集め(複合剤)ですから、様々な症状に対応できる反面、それだけ情報収集も必要ということです。