『29歳Nさん。アトピー性皮膚炎にて皮膚科通院中。春と秋になると、咳が止まらなくなる。内科を受診して、咳喘息と診断され、吸入ステロイドや抗ヒスタミン、鎮咳薬などが処方された。治療で、症状は軽減したが、完全に咳は止まらない。咳は一日中持続する日もあるが、痰がらみはあまりない。朝方になると胸苦しさを覚える。
  産後で乳児がいるため、あまり咳止めなどは飲みたくない…との事で来院。』

  前号で「慢性咳嗽(ガイソウ)」を漢方医学的に扱う際に「喀痰の有無」は大切なキーワードであることを紹介しました。今回は、痰が比較的少なく、咳喘息・アトピー性咳嗽が疑われる症例についてお話します。

  当然ながら、急性期は漢方薬のみで対応するよりは、喘息に準じて適切にステロイドなどを使用すべきです。Nさんは典型的なタイプですが、注目すべき点は症状が咳だけでなく、いわゆる「胸苦しさ」を訴えることが多く、しかも特に夜間から明け方に強いことです。要するに、安眠できずに咳で起きてしまうわけです。また、春・秋などの症状の季節性やアトピー素因などアレルギーを疑わせる病歴があるのも特徴です。

  このようなタイプには、『五虎湯(ゴコトウ)』と『二陳湯(ニチントウ)』の組み合わせが有効です。『五虎湯』は西洋薬では気管支拡張薬と抗炎症薬に相当し、『二陳湯』は嘔気を抑えるので漢方薬では胃薬として用いられることが多いのですが、むしろ「痰きり」としての生薬が含まれていますので、西洋薬では去痰薬に相当します。実はこの薬は「浅田飴」でも有名な「浅田宗伯」という人が考案した漢方薬です。

  『五虎湯』は、痰が粘って黄色くなり、少しこじれた慢性期の咳嗽にもよく用いますので、この薬のみでも有効ですが、特に「胃もたれ」する場合には、胃腸の調子を整えて痰を減らし咳も減らす『二陳湯』を加えるとより効果的なわけです。Nさんは、もともと胃腸が弱い方でしたので、この組み合わせは有効でした。

  次回は「胃食道逆流による咳嗽」についてお話します。