今回も、比較的痰の少ない慢性的な咳のお話です。

『55歳Mさん。5ヶ月前から無色透明の痰と咳が持続する。他院にてCT検査から肺炎の可能性が高いと診断され、気管支鏡検査まで行うが菌の特定はできなかった。
 熱は37度前半で、全身の倦怠感があり、痰は唾液のような透明な痰で、痰の切れはよい。特に食後に咳が出やすいようで、胃のつかえ感と胸やけがある。胸やけに対して、胃酸を抑える薬が処方されたが、あまり効果がなかった。漢方薬を試したいとの相談にて来院。』

 Mさんの咳は、以前の号で紹介しました「感染後咳嗽(ガイソウ)」や「咳喘息・アトピー咳嗽」とはタイプが違いました。注目すべき症状は、胃酸の逆流による胸やけ・胃腸症状・胸の軽い痛みを伴う点にあります。

Mさんのような「胃食道逆流による咳嗽」には、随伴症状に「口が苦い・口が渇く」という症状がある場合に「柴胡(サイコ)」という生薬を含む漢方薬を処方することがありますが、Mさんには、そのような症状もなく、「胃内停水」(胃のあたりを揺するとチャポチャポという音がする)が著明でしたので、胃の貯留を改善する『四君子湯(シクンシトウ)』が含まれている『茯苓飲合半夏厚朴湯(ブクリョウインゴウハンゲコウボクトウ)』を飲んでもらいました。

 Mさんには、息子さんの事でいろいろ気がかりなこともあり、軽い心身症の診断を受けたこともあるとの事で、『茯苓飲』(「胃内停水」がはっきりあるときに有効)単独よりも『半夏厚朴湯』(漢方薬として抗うつ作用をもつ)を加えた『茯苓飲合半夏厚朴湯』がより有効でした。

こちらの効果が不十分な場合は、①うつ症状 ②食欲不振 ③冷え ④乾燥 に注目して他の漢方薬を追加したりします。また、「呑酸(ドンサン)」といって胃酸過多により口内の酸味(苦味ではない)が気になる場合は、心身症の要素が強くないか確認することが処方する際には重要です。

 漢方の古典には「脾は痰を生み出す源、肺は痰を貯める器。」という文言があり、痰を治療するには脾胃から治療しなければならないとする解釈があります。ヒトのからだの生物史では、肺と消化管はもともと一つながりだったようですし。しかも肺の下に胃がつながっていました。何か東洋医学にも通じる感じがします。