『35歳Mさん。元来、胃腸の調子はよくないようで、過敏性腸症候群の既往がある。職場でトラブルがあった後、胃痙攣で救急病院に搬送されたこともある。その後、胃もたれが持続し、内視鏡などの検査をするも異常所見はなく、一般薬を処方されたが、改善に乏しく、漢方薬を希望して来院。』

 Mさんは、来院時の印象はまず「眼の下のクマ」が目立ったことでした。また、職場のストレスが強く、常に焦燥しきっているようでした。 舌を診ると、白い苔は厚くこびりついており、舌全体は暗赤色で舌を裏返すと、「舌下静脈」が著しく紫色で怒張していました。以上の症状は「血(ケツ)」の異常の中でも、瘀血(オケツ…血の滞った状態、詳細は以前の号を参照)の典型例です。

 本人は以前に漢方薬を飲んだことがあり、『黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)』で胃痛が、『六君子湯(リックンシトウ)』で胃もたれがそれぞれ改善したので、できればそれを処方してほしいとの事でした。そこで、この本人の希望を尊重し、治療を開始しました。二週間後、症状は悪くはならないものの、「無理やり胃が抑え込まれているようで、胃の存在感?を感じる」といいました。

 そこで、東洋医学的に再考しても瘀血の改善がやはり優先するのではと思い、瘀血の改善薬として『桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)』を処方しました。数日で病状は好転しましたが、一応、胃もたれも考慮して、『六君子湯』より生薬を減らした『四君子湯(シクンシトウ)』を一緒に飲んでもらいました。瘀血の改善効果なのか、頭痛・肩こりや月経に関する症状も改善しました。2ヶ月飲んでからは、ほとんどの症状が消失したので『桂枝茯苓丸』のみにしましたが、以後の経過も順調でした。

 半年後に来院されたときは、ストレスのない職場に転勤されたとの事で、それを機に当院での治療も終了いたしました。Mさんにとっての一番の治療は職場を変えたことかもしれませんね。