漢方医学における「肝(カン)」は、興奮や怒りなどの精神神経症状を司るところと考えられており、西洋医学における「肝臓」とは意味が異なります。今回紹介する『抑肝散(ヨクカンサン)』は「興奮や怒りを鎮める」という意味から名付けられました。

『33歳Gさん。3歳のお子さんの育児に疲れ、最近夜泣きでイライラすることが多い。マンションの隣室にも聞こえるのではないかと思うと、気を遣ってしまう。日中子供にもあたる自分が怖いとの事。友人に漢方薬も効くことがある?と聞いて来院。』

Gさんは本当に育児疲れの典型で、イラつく自分自身に困惑していました。話を聞くとお子さんもいわゆる「疳の虫」の症状でしたので、ご本人と一緒に『抑肝散』を飲んでもらうことにしました。『抑肝散』は、もともとは小児に使うことが多かった薬ですが、中国の古典にも、母子が同時に服用することで(母子同服)、母子ともに気の高ぶりを鎮める効果があるとされています。

最近は『抑肝散』が高齢者疾患にも応用も報告され、有効な治療手段が確立されていない認知症や脳血管障害後遺症患者に現れる、徘徊・暴言・暴力といったいわゆる問題行動に対して有効なことが報告されています。

私の友人の精神科医師も「暴力で手に負えない高齢者に『抑肝散』を処方したら、ふつうのやさしいおじいちゃんに戻ったよ。」という症例について先日話していました。

『抑肝散』が効く症状には、その基盤に「うつ傾向」があることがポイントですが、ストレスが加わると誰しもがその傾向が出現することは皆さんも経験があると思います。

つまり、日常誰にでも起こりうる症状であることを周囲の方も理解してあげなければなりません。Gさん親子にも効果があったようで、その後外来にお子さんと一緒ににこやかな顔で来院されました。前回も母子同服のお話でしたが、小さなお子さんがいる女性は育児を含めて精神的ストレスが多いのですから、皆さん、いたわってあげましょうね。