こういう言葉を聞かなくなって久しいですが、古来、楽しく裕福な、夢のような暮らしができる理想郷として描かれているのが『桃源郷』です。

山中遠く、迷い込んだその地には桃の花が咲き乱れ、人々皆楽しく、憎み合わず、子供から老人まで共に助け合い、病気もなく長寿を受け入れ、生き生きと仕事をしているという世界のことです。まるで現代社会のパラドックスのようですが、漢方では、桃は長寿の食べ物とされています。

昔の人は桃はとても身体に良く、鬼のような人をおだやかにすると考えていました。

「桃太郎伝説」の中で、鬼(=邪悪なもの=病気)を退治してくれるのは、山から流れてくる桃の中から飛び出した桃太郎(=桃の種=「桃仁(トウニン)」)であり、子供に恵まれなかった夫婦(=高齢不妊症)が、桃を食したために(=「お血(オケツ)」が改善)、子供ができたという説は漢方医学を基礎としたありそうな話なのです。

「桃仁」は「お血」(詳細は前号を参照)を改善(=血液の滞りを改善)する効果をもつ生薬の代表選手であり、それを配合した『桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)』は最も強い「お血」対策の漢方薬です。

この物語は、「桃仁」のもつ強い「お血」を改善する効果により、長期不妊の夫婦が元気な男の子を授かるというストーリーと解釈すれば、昔、邪鬼や動物の霊に憑かれたように考えられ、古書にも「狂人の如く」と記されていますが、まさにそのようにみえた月経痛でひどく苦しむ長期不妊(現代医学では子宮内膜症)の患者を治療(=鬼退治)できたのは、まさしく桃太郎(=「桃仁」)だったのでしょう。

このように、桃から生まれた「桃仁」が女性の疾患の治療では欠かすことのできない「お血」対策の生薬であることを知ると、漢方薬にも少し親しみが持てるのではないでしょうか