今回の患者さんは、「めまい・ふらつき・のぼせ」を主訴とする方です。

『31歳、Gさん、女性。元々健康。以前から入浴時にのぼせを自覚していた。最近、のぼせに加えてめまい・ふらつき感が出現。気になって耳鼻科を受診したが、検査で特に異常所見はないといわれた。』

この方が来院された時、お話を聞いた後すぐに「舌」を診ました。舌全体が赤く、やや紫がかっていました。これは、以前お話した「お血(オケツ)」(簡単に言うと、うっ血)ですね。「お血」は体中のどこにでも起こります。頭痛、肩こり、目の下の隈、口唇の紫色、下腹部の圧痛、生理痛、打撲などいろいろあります。

「お血」に対しては「駆お血剤」というものが漢方薬にはありまして、この方には桂枝茯苓丸[ケイシブクリョウガン]という有名な薬を処方しました。

この漢方薬には、桂枝[ケイシ](いわゆるシナモンです)と茯苓[ブクリョウ]が含まれていますが、前者は「気を発散させる」作用を、後者は「水をさばく」以外に「気」に関わる作用があり、特に動悸・めまいに有効です。実はこの両者の組み合わせは、循環器などの病気がない「動悸・めまい」といった不定愁訴(フテイシュウソ)に対してはとても有効なゴールデンコンビなのです。

桂枝と茯苓の組み合わせのみでよければ、他にも漢方薬はあるはずです。

なぜ、桂枝茯苓丸を処方したのか?単に「動悸・めまい」があるだけでなく、「お血」を見つけたからなのです。私は、もう一つ「お血」を証明するために、Gさんのお腹を触ったところ、下腹部は硬く、押すと痛がる箇所(圧痛点)がありました。

桂枝茯苓丸が「駆お血剤」である理由は、桃仁[トウニン](モモの種)・牡丹皮[ボタンピ](ボタンの根皮)が含まれているからですが、これらの生薬は「下腹部の圧痛」に有効なのです。ですから、「お血」でも「下腹部の圧痛」がない場合には意味がないことになります。これでお腹を触る理由が分かりましたね。お腹を触るのは、処方する漢方薬を決定したいからなのです。

あれ?じゃあ、「駆お血剤」というからには、なぜ桂枝茯苓丸は「桃仁牡丹皮丸」と言わないの?と思いませんか。これは、桂枝茯苓丸が「気」の薬としての顔が強いことを意味しているのです。つまり、桂枝・茯苓の方が役者が上ということです看板役者が薬の名前になるわけですよ。桂枝茯苓丸が有名な漢方薬であるのは、それだけ「単なるお血」よりも「気の異常を伴ったお血」の人が多いからなんですね。