今回は「気うつ」(「うつ病」とは異なります!)のお話をしますが、単に「気うつ」しかない人は少なくて「気虚」や「気の上昇」(詳しくは前回参照)が入り混じっている人の方が多いものです。

ですから、「気」の異常に対する漢方薬の処方は難しいのですが、このとらえ方を「不安」「あせり」「イライラ」の3つに大きく分けると処方の仕方もみえてくることがあります。では、症例を紹介しながら解説しましょう。

『21歳、Aさん、女性。元々健康、昨年就職した職場でストレスを感じている。身体に異変があるわけでもないが、気がめいり食欲もない。時々動悸のようなものを感じ、漠然とした胸の圧迫感がある。』

『37歳、Bさん、女性。元々身体は弱い方だったが大病をしたわけでない。ここ一年程仕事や家庭に情熱を傾けることができなくなり気分が塞ぎ込む。』

Aさんのように「漠然とした胸の圧迫感」は「気」の異常の際、結構訴えとして多いものです。これは以前お話した「胸脇苦満(キョウキョウクマン)」なんですね。となると、柴胡[サイコ]という生薬が含まれた漢方薬が処方の候補になりますし、実際この方の胸の症状は柴胡でないと取りきれないでしょう。

実際に処方した薬は柴朴湯[サイボクトウ]でした。これは、喘息の漢方薬として有名なのですが「気剤」として結構いけます。

「気うつ」に加えて吐き気などがあれば、この薬はもっと有効です。ちゃんと吐き気に効く生薬が含まれているんです。気がめいる時は消化器症状って出やすいですよね。漢方薬はそういう所にも気配りされているんです。

Bさんは、Aさんのような「イライラに近い気うつ」とは違いますね。胸のつかえも無いです。ですから、とりあえず柴胡は必要ないです。Bさんは「やる気がない、気虚に近い感じ」で、「気うつ」と「気虚(じっとしている、元気がない)」の境界みたいな症状です。

こんな場合は「気をめぐらす」(柴胡は気を外に捨てるイメージ)生薬が有効で、この方には香蘇散[コウソサン]を処方しました。この薬は「気を発散させる」効果があり、気分を晴れやかにします。二週間後は明るい顔で来院されました。

このように「胸脇苦満(キョウキョウクマン)」は気の異常によっても起こり、「気うつ」に対してもこれがあるかないかで漢方薬は変わるし、変えなきゃならないのです。ですから、私は「胸のつかえ感」を毎回患者さんに聞くことにしています。