『80歳Hさん。30歳代に腸閉塞を含めて3回の開腹手術の既往のある方で、以来腹痛が持病?との本人の弁。お腹が張ってシクシクと痛み、便通はすっきりせず残便感が常にある。下剤を飲むと痛みが強くなるばかりでかえって便通がつかない。長女と共に来院。』

Hさんは、小柄でしたが極端にやせてはおらず、しっかりしたおばあちゃんでした。お腹の壁はとても柔らかくて腸の動きがお腹の上からはっきりみえる状態で、本人は「お腹に蛇が這っているみたいなんだよ(笑)」との事。『大建中湯(ダイケンチュウトウ)』を処方しましたが、2週間でほとんど痛みが無くなり体調も良くなったとの事で、外来に来られたときには大変喜んでおりました。

この方に『大建中湯』を処方したキーワードは「腰が極端に冷えてまるで水の中にいるようだ」の一言でした。

以前にも『大建中湯』は『お腹(下半身も含む)の冷えに伴う腹痛』に有効な点は紹介しましたね。この漢方薬の生薬には「山椒(サンショウ)」が含まれており、消化管、特に腸管の血行をよくする作用は動物実験でも証明されています。

私の友人の外科医から聞いた話ですが、腸閉塞の緊急手術をした患者さんに入院中術後に『大建中湯』を処方した後、退院後の外来で別の医師に「あまり効かないでしょうから、漢方薬は処方しませんから」の一言で『大建中湯』を中止したところ、とたんに便秘してお腹が張り食欲もかなり落ちてしまった方がいたそうです。

いくらその医師に頼んでも「漢方が効くのは気のせいですから」といって処方してくれない。その患者さんはとうとう漢方薬を処方してくれる別の医院に行って薬をもらったところ、やはり『大建中湯』を続けて飲むと調子がよく、残便感も減って、食欲も出るらしく、以来数年間も飲んでいるようです。

便秘ではありませんが、お腹が張るんだけど下痢をするという75歳の女性にも『大建中湯』を処方して有効だった例も私自身は経験しています。

印象としては、『お腹全体がガスで膨満する方でやや痩せ気味の虚弱体質』でしかもご高齢の方にも『大建中湯』は大変効くように感じます。この薬は比較的早く1~2週間で効果が充分に出ますし、漢方薬の中でも副作用があまり無い部類なので高齢者にも使いやすいお薬ですね。