『54歳Nさん。5年位前から腰痛を自覚するようになり、痛みは左臀部(お尻のあたり)から下肢外側にビリビリ感を伴い、鎮痛剤を飲んでも良くならない。夏になり暖かくなると痛みは自然と軽快し、秋から冬にかけて寒くなると悪化することを繰り返す。3年前に整形外科で腰椎椎間板ヘルニアと診断されているとの事。』

 Nさんは本来暑がりなのですが、「温めると痛みがやわらぐ、冷えて悪化する」点がキーワードです。

お腹を触ると、臍の周囲の圧痛があり、足のむくみ・舌の歯型の痕から東洋医学的には「お血(オケツ)」(血液の循環不全)・「水毒(スイドク)」(体内の水分のアンバランス)が認められました。Nさんの主訴は「腰痛」ですが、漢方処方を考える場合には、その痛みの部位も大切です。

有名な『八味地黄丸(ハチミジオウガン)』はウエトラインを中心とした痛みに有効であり、Nさんは仙骨付近の高さの痛みや、腰周りや特に太ももまでスースーと冷えるという状態でしたので、『苓姜朮甘湯(リョウキョウジュツカントウ)』を処方しました。

 2週間後、腰痛は少し改善したので、『附子(ブシ)』をさらに加えたところ、1ヶ月後には足先は冷えるが、かなり調子は良いとの事でした。2ヵ月後、腰痛は以前よりも楽で、時折しびれを感じる程度なので、引き続き処方を継続することにしました。

 『苓姜朮甘湯』は、腰以下に水滞(スイタイ…水分のうっ滞)があり、さらに寒冷の作用を受けて腰が冷えて重く、時に痛みを伴うものに用いるとされています。『苓姜朮甘湯』が有効な痛みの特徴は重だるいといった感じであり、あまり強い痛みではありません。冷えが強い場合や疼痛が明らかな場合はNさんのように、『附子』を加えることがあります。

 腰痛に対しては漢方薬も有効なことが多く、ぎっくり腰や坐骨神経痛には『芍薬甘湯(シャクヤクカンゾウトウ)』はよく用いられますし、ストレスなどで誘発される腰痛には、『桂枝湯(ケイシトウ)』+『麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)』+『附子』などが有効です。腰痛で悩んでおられる方は一度試されると良いかもしれません。