前回に引き続き、カゼに関する漢方薬のお話です。

カゼの際の咳に対する漢方薬は、乾いた咳・湿った咳などの症状によって異なるのですが、私の場合は朝・夕に『麦門冬湯(バクモンドウトウ)』を、寝る前に『竹茹温胆湯(チクジョウウンタントウ)』を処方する場合が比較的多いです。

一つの理由には、自分が好きでよく分かった生薬から成り立つ薬を優先することからだと思いますが、『麦門冬湯』は「気剤」としても有効なので、よくカゼで頭がボーッとする場合にも有効だからです。

以前に、カゼの流行もおさまり気候の良くなった時期にやってきた患者さんが「眠れなくてつらいので、この前出してくれた眠れる漢方薬がほしいんですけど。」と言ってきました。「○○さんに、眠れる漢方薬は出したことがないはずだけど…」「先生が、カゼを引いたときに、寝る前にといって出してくれたアレですよ。」

なるほど、そうだったのかと気がつきました。『竹茹温胆湯』のことでした。咳き込んで数日間眠れない状態が続いたあとに受診してもらった漢方薬を飲んだら、ぐっすり眠れたので、眠れる漢方薬だと思い込んでいたようです。

寝床につくと咳き込んで寝れずに、仕方なく起きている。また、眠気がきたので寝床に入ると、しばらくして身体が温まってきた途端にまた咳き込みが強くなって眠るどころじゃない。そんなときに効果を発揮してくれるのが『竹茹温胆湯』なのです。

『麦門冬湯』は咳が出始めるともう止まらないような空咳に有効です。咳き込みの程度が強く、肋骨に響くような咳には『柴陥湯(サイカントウ)』、喘息様でヒューヒューする咳には『麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)』、胸が詰まったような息苦しさが続く咳には『半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)』『柴朴湯(サイボクトウ)』がお勧めです。

このように漢方薬には、「咳」という一つの症状に対しても豊富なラインナップが用意されています。これはいつも言うように生薬の複合剤である漢方薬の為せる技なのです。
単なる「咳き止め薬」ではないことをご承知下さい。