『85歳Mさん。普段から身体や足に冷えを感じており、寝つきは良いのですが、夜間に何回も眼が覚めるようです。そして、眼が覚めるとトイレに行く際に身体が冷え切ってしまい、もう眠れなくなってしまうので、何か良い治療法はないかというご相談で来院。』

 Mさんの症例は、夜間の中途覚醒時に習慣的にトイレへ行き、そのたびに冷えによって入眠が妨げられたもの、というように解釈できましたので、まず寝るときに枕元にお湯と『麻黄附子最細辛湯(マオウブシサイシントウ)』を用意してもらい、夜間に眼が覚めたらこれを飲んでもらうように指示しました。

これを繰り返してもらったところ、身体がすぐに温まるようになり、トイレへ行って戻ってきてもすぐに眠れるようになったとの事でした。

 『麻黄附子最細辛湯』は高齢者には使いやすく、かつ即効性のある漢方薬です。我々は排尿した後に、あたかも寒さにあたったかのように身震いすることを度々経験しますが、高齢者ではトイレに行った後に気分が悪くなって倒れてしまう、いわゆる排尿後の迷走神経反射による失神にも似たようなことが起こっている可能性もあります。

つまり、気分が悪くなったためになかなか寝つけなかったとすると、『麻黄附子最細辛湯』を事前に飲んでもらってからトイレに行くことで、それを予防できたと考えられます。

 不眠に対しては、「頭寒足熱」つまり頭が冷えて足が温まるとよく眠れるように昔から云われており、一般的には、頭が熱くなって足が冷たくなると眠れないタイプが多いようです。

このような場合は、寝る前に『酸棗仁湯(サンソウニントウ)』など飲んでもらいますが、高齢者になると、Mさんのように逆に温めて眠れるようになる症例も少なからずいらっしゃいます。