『31歳Kさん。2月の中旬に「今頃の季節になるときまって動悸がします」と当院来院。札幌で仕事をしていましたが、仕事のストレスから軽いうつになり、半年前から北見に戻ってきたようです。病気になって以来、疲れやすく気力もなく、食欲不振・胃もたれ・便秘があり、とかく家にこもりがちだと…2年くらい前から2月中旬になると、夜の動悸・顔や手足の軽いほてり・不眠などの症状が起こってくるとの事。』

紀元節というのをご存知でしょうか?これは建国記念日と名を変えて2月11日で、神武天皇が即位した旧暦の1月1日で、1年の内一番寒い頃となります。

Kさんの症状は、この紀元節の頃から出現したと考えることができますね。北海道はこの時期はまだまだ寒い時期ではありますが、確実に冬至から徐々に日照時間は長くなりつつある時期です。日光があふれ出ようとする季節が春とすれば、2月中旬は春の息吹が潜んでいる時期ともとれますね。

東洋医学では、陰(イン)・陽(ヨウ)という考え方があり、季節に対応させると冬・夏になります。この陰・陽の変わり目は病気が悪化しやすいことは古来から知られていますし、現代でも花粉症など例にとるとお分かりのように該当する点があるのは事実でしょう。

とすれば、Kさんの症状は身体が春の気配を無意識に感じたからだという一つの見方もできます。

事実、東洋医学では、動悸・不眠・ほてりなどは、身体が熱をもったために起こることが多いという考え方があります。

「熱のためですかね」というと「私は冷え性です。それに今は一番寒いときでしょう」と反論してきたKさんに処方したのは『桂枝加竜骨牡蠣湯(ケイシカリュウコツボレイトウ)』でした。その結果、動悸は鎮まり、眠りもよくなり、うつ的な気分も快方に向かいました。この薬は『桂枝湯(ケイシトウ)』に化石の粉末である「竜骨」とカキの殻である「牡蠣」を加えたものです。

『桂枝湯』は冷え性で虚弱な人の初期の感冒によく使用されますが、身体を温めて全体的に元気にする作用があります。「竜骨」「牡蠣」は共に気持ちを鎮め、上昇した熱を冷まして降ろす作用があります。

つまり、『桂枝加竜骨牡蠣湯』は身体の虚弱な冷え性の人向けの精神安定剤的な働きをしているのです。身体は冷えているが軽度の熱もあるという状態は、寒い季節にありながら、その中に春の日差しを含んでいる2月中旬に似ているわけですね。