抗インフルエンザ薬が十分に供給される保険システムを有する日本においては、2010年の新型インフルエンザ流行期には世界で最も死亡例が少ない国でした。症状の早期軽快、重症化の回避などの最近の薬の治療効果にはめざましいものがあります。しかしながら、思わぬ副作用や現在の抗ウイルス薬に耐性をもつインフルエンザウイルスの出現も確認されており、手放しでは喜べない状況にあるのも事実です。

 漢方薬は古来より熱性疾患に対しては症状の時間経過による視点で治療方針を示しており、インフルエンザにもこの視点で対峙してきています。今回はインフルエンザ感染にみられる太陽・少陽・陽明・少陰という東洋医学の4段階の病期(ステージ)に対する漢方治療についてお話します。

  1. 太陽病期…熱性疾患の初期、悪寒・頭痛・節々の痛み・項(うなじ)のこりなどの症状が出現し、発熱しても汗が出ていない病期です。胃腸に問題のない人で、体力的にまだ余裕があれば、「麻黄(マオウ)」が配合された『麻黄湯(マオウトウ)』『葛根湯(カッコントウ)』が有効です。発汗・胃腸虚弱があれば、『桂枝湯(ケイシトウ)』が適応となります。特に『麻黄湯』は抗ウイルス薬との比較試験でその有効性が評価され、広く使われるようになりました。
  2. 少陽病期…太陽病期から進行して悪寒と発熱が交互に出現し、食欲不振などの消化器症状が出現した病期です。舌には白い苔が付着していたり、胸脇苦満(胸脇部が苦しく不快な感じ)などの漢方医学的所見がみられます。この病気には「柴胡(サイコ)」が配合された『小柴胡湯(ショウサイコトウ)』『柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)』『柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)』などが用いられます。
  3. 陽明病期…熱が盛んとなり、稽留熱(1日の体温差が1℃以内で38℃以上の高熱が持続)、弛緩熱(1日の体温差が1℃以上の変化をとるが37℃以下まで下がらない)、尿量減少、便秘傾向に特徴づけられる病期です。高熱の持続による体力消耗を招く危険があるため、この病期になると清熱が治療の中心となり、「石膏(セッコウ)」が配合された『白虎加人参湯(ビャッコカニンジントウ)』『越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)』や、「黄連(オウレン)・黄 (オウゴン)」が配合された『黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)』などが適応します。
  4. 少陰病期…悪寒が強く、全身倦怠感によって起床が辛い状態が出現した病期で、通常は熱が続いた後にみられますが、ときに罹患して間もなく直接この病期になる場合があります。この病期には『麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)』が適応です。

 インフルエンザで重要なことは何と言っても予防が第一です。予防接種は本人のためばかりでなく、家族のため、社会のためと理解していただき、特に高齢者や幼小児と接する機会の多い方は是非とも予防接種を受けて下さい。