動悸や胸部不快感を主訴に心臓内科や循環器科の外来を受診する女性は年齢を問わず少なくありません。心臓内科外来の3割から5割の患者が「動悸」を主訴としています。ただ、この場合胸苦しさや息切れも含めて「動悸」として訴えていることが多く、この場合はあまり病的な意義がないようです。根本的には心臓の調律異常(いわゆる不整脈)の表現をしている場合で重視すべきは突然死の予防、つまり致死的な不整脈の除外が大切です。その診断がつくまでは注意深い観察が必要です。しかしながら、現実的には西洋医学的に治療を要する症例の割合は多くないのも事実です。
「動悸」に対する漢方薬はいろいろありますが、今回はその中でも『半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)』を用いるタイプに関してご紹介します。


「症例1…25歳女性。仕事中に脈の不整を伴う動悸を自覚。数時間で徐々に症状は消失したが、再度動悸を自覚。仕事のストレスあり、息が吸いづらいことがある。他院にて症状あるときに心室性期外収縮があると云われた。」

「症例2…34歳女性。仕事の責任が重くなり、緊張感が増してきた。仕事の緊張がとけたときや就寝前に脈の不整を伴う動悸を30分程度自覚するようになった。症状あるときの心電図は異常なし。」

「症例3…45歳女性。不安感が強く、安静時に30分程度動悸が続く。不安で喉が詰まったようなときがある。生理はきていないので、他院でホルモン治療をうけている。」

「症例4…50歳女性。10年前からストレスを契機に1時間ほど続く動悸および胸部不快感が出現。循環器科で精査し異常なしといわれた。」


以上の4症例には『半夏厚朴湯』を処方いたしました。2週間位で症状はほぼ消失し、数か月内服を続けた方もいらっしゃいます。漢方の大家であった大塚先生は、「ストレスで発作性にくる不安や恐怖感のある場合や元来、用意周到で生真面目なタイプには『半夏厚朴湯』が有効なことが多い。」と述べています。『半夏厚朴湯』は「気うつ」(気がうっ滞している)に用いることが多いのですが、それに伴う胸部症状としての「動悸」には大変有効な漢方薬と思われます。

「動悸」に対しては病的な不整脈の除外のために西洋医学的な診断・治療は必要ですが、先に紹介したような病的意義の少ない「動悸」には西洋医学的治療の選択肢は極めて狭く、漢方薬を試される価値は十分あるように思います。