『53歳Fさん。51歳で閉経し、その頃より寝つきが悪くなった。1年前から冷えのぼせを感じることが多くなり、市販の更年期に良いといわれている漢方薬を4ヶ月位服用したが、効果がみられないため、漢方治療を希望して当科に来院。』

 初診時、Fさんの自覚症状は、不眠・冷えのぼせの他に、疲れやすい・胃もたれ・喉のイガイガ・空咳が出やすい・口渇・肩こりなど多彩でした。いわゆる虚証が認められましたが、右胸脇あたりの不快感もあるため、『柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)』を処方しました。2週間後には「食欲が増えてきて調子が良い」。1ヶ月後には「冷えのぼせが楽になった。喉がイガイガして乾きやすいのも気にならなくなった。最近、咳も出なくなった」と云われ、調子が良いとの事で、薬を継続していただきました。3ヶ月後の外来時には、寒い冬の季節にも関わらず、「足が冷えなくなり、寝つきが良くなった」と不眠の改善も認められました。

 今回は更年期に伴う「倦怠感・不眠・イライラ・冷えのぼせ」などの他に呼吸器症状の訴えもあったケースです。更年期障害を評価する方法として、日本産科婦人科学会が発表した更年期スコアが頻用されますが、その項目には呼吸器症状は含まれてはいません。

 古典では、「慢性病でなかなか治らず、身体が弱り、寒熱が交互におこり、動悸や寝汗、痰が引っかったり空咳が出たりして喉や口が渇き、そのうえ下痢になり、精神的に参ってしまい、味の濃い強い薬に耐えられなくなった者には『柴胡桂枝乾姜湯』がよろしい」という解説があります。

 更年期障害には一般的に「瘀血(オケツ)」(いわゆる血液の循環不全)を伴うことが多いため、これを改善する生薬(駆瘀血剤)を含んだ漢方薬を処方することが多いのですが、Fさんのような更年期女性の中で、虚証で呼吸器症状がみられる場合には、駆瘀血剤が含まれていない『柴胡桂枝乾姜湯』が処方の選択の一つになることがあります。漢方医学では、呼吸器症状を体力が低下した「気虚(キキョ)」による影響ととらえる考え方があり、更年期女性にはこれに該当する方が少なからずいらっしゃいます。