『32歳Mさん。2回流産後に、月経痛がひどく、子宮内膜症の診断を受け、他施設にて両側の卵巣嚢腫を摘出し、手術後の癒着も指摘されていた。現在は「冷え」に困っており、漢方薬を試してみたいとの事で、当院受診。』

 Mさんには「冷え」がとにかくつらいという症状から『当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)』をまず飲んでもらいましたが、一時的に温かくなる感じはするもののイマイチの反応でした。症状をよく聞いてみると、「冷え」ばかりではなく、「お小水をした後に不快感が残り、また全身が疲れやすい。」との事でした。尿検査では異常所見はありませんでした。

 そこで、Mさんには『真武湯(シンブトウ)』に変えてみたところ、「今度の薬は身体の芯から温まる感じがする。冷えがひどいときの腰痛にも効いている。最近は疲れもとれて食欲があるし、冷えによって起こっていたのか分からないが、膀胱の症状も良くなった。」との事。

 東洋医学では「冷え」という症状を非常に重要に考えます。「冷え」があるとないかでは漢方薬も根本的に大きく変わってきます。『真武湯』は、冷え症で虚弱な体質の諸症状に用いられますが、胃腸が弱く疲れやすく、やや尿の出が悪いような方にはより有効です。「冷え」には『真武湯』にも含まれている「附子(ブシ)」という生薬が有効です。「附子」はトリカブトの根で、昔アイヌ人が毒矢として矢の先に塗っていたといわれる毒性の強いものです。しかし、漢方薬ではこういうものまでうまい使い方をして身体を温めて「冷え」を治す妙薬にしてしまうのです。

 その後、Mさんは胃腸の症状に重点を置いて、『六君子湯(リックンシトウ)』に「附子」の粉末を加えて飲んでもらい、日常生活が快適になったようです。さらにMさんは散歩をしたりして積極的に身体を動かすように心がけるようになり、その点も症状の改善に大きく貢献しているように感じました。