『16歳女子学生Dさん。体育の授業中に外陰部を打撲。腫れと痛みのため、当院に来院。』

 来院時のDさんの外陰部は紫色でピンポン球大に腫れていました。痛みが強く、座るのも大変そうで排便も痛みのため思わしくないとの事。そこで『治打撲一方(ジダボクイッポウ)』という漢方薬を鎮痛剤とともに処方しました。5日後に診たところ、腫れと痛みは軽快し、本人と母親が曰く「こんなに早く治るとは」との事で、もう一週間漢方薬のみ続けてもらいました。

 『治打撲一方』は江戸時代の香川修庵が考案した民間薬として使用された漢方薬です。打撲症の場合には基本的には「瘀血(オケツ)」(詳細は以前号)の状態を改善する薬が使用されますが、『治打撲一方』には鎮痛効果に加え、組織を修復する作用をもつ生薬も含まれています。また、下剤の際によく使われる「大黄(ダイオウ)」という生薬も含まれていますが、この場合は瀉下(シャゲ)作用よりも清熱作用すなわち抗炎症作用が期待されます。

 打撲直後には『三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)』や『黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)』なども用いられますが、大きな皮下出血がある場合には『通導散(ツウドウサン)』を用い、当院でも重度の分娩時外傷の際によく使用します。『治打撲一方』は急性期を過ぎた時期にも有効で日を経た打撲症で痛みや違和感の残った場合にも用いられますが、打撲後の比較的早期にも疼痛・腫れに対してかなり有効である印象は使用経験から感じます。

 打撲というと湿布という印象がありますが、打撲後の疼痛・腫れ・紫斑(皮下血腫などで皮膚が紫色に変色した状態)に対する漢方薬のアプローチは意外にも西洋薬を凌駕する側面をもつと思います。即効性も期待できますので、打撲の際は一度お試しください。