今回は、幾度か取り上げたことのある『五苓散(ゴレイサン)』についてお話します。『五苓散』は「沢瀉(タクシャ)・猪苓(チョレイ)・茯苓(ブクリョウ)・白朮(ビャクジュツ)・桂枝(ケイシ)」の5つの生薬から構成されており、水分のバランスを司る機能をもつ作用がしっかりと含まれています。一言でいうと、『五苓散』は水分代謝異常、水分の過多および偏在、すなわち漢方でいうところの「水毒(スイドク)」を改善する薬です。

 『五苓散』が適応となる症状は、浮腫(むくみ)・下痢・嘔気(嘔吐)・耳鳴り・めまい・排尿困難(尿量減少)などで、応用範囲が広く、しかも効果が高くて即効のことが多いです。最近は、脳梗塞の急性期に生じる脳浮腫にも有効であるという報告がされています。片頭痛や下痢なども、広く見れば頭部の浅在静脈や腸管の壁の浮腫によるもの、めまいも三半規管のリンパ性の浮腫によるものととらえれば、これらの症状に『五苓散』が効くのは理に適っています。

 小児の嘔吐や下痢を伴う感冒には特に効果があり、嘔吐するごとに飲ませると早期に症状は安定します。単なる止瀉薬とも異なるため、細菌性下痢にも用いることができます。副作用はほとんどありませんが、あえて言うと、「桂枝」を含むので、シナモンアレルギーに注意する程度です。嘔吐への効能の応用として、二日酔いや乗り物酔いにも効果があります。特に後者の場合には乗る前に服用しておくとよいでしょう。

 めまいに関しては、メニエール症候群や起立性低血圧症とこれに伴う立ちくらみにも有効という報告もあります。

 『五苓散』の適応において、問診の決め手は「天候悪化によって症状が悪化するかどうか」です。低気圧の接近で頭痛や耳鳴りが悪化するが、一旦雨が降り始めると症状が改善するタイプの人にはうってつけです。また、口が渇くが尿があまり多くないという人にも有効ですが、体力が低下しすぎている方には効きません。

 最近の研究では、アポアポリンという水分を調節する細胞膜のチャンネルが発見されており、この作用の調節に『五苓散』が関わっていることが分かりました。漢方薬も少しずつ科学的なメスが入りこんで、このように効果に関する研究が進んでいます。