『34歳Bさん。食欲がなく、疲れやすく、めまいや立ちくらみが頻回におこるので近医受診したところ貧血と診断された。婦人科受診を勧められ、当院に来院。』

 貧血とは、血液中の赤血球やそこに含まれる血色素(ヘモグロビン)が少なくなった状態を指しますが、最もよくみられるのは、ヘモグロビンに含まれる鉄が不足して起こる「鉄欠乏性貧血」です。ヘモグロビンの役割は、肺で酸素を受け取り、身体の隅々まで酸素を運ぶのと同時に不要になった二酸化炭素と結びついて肺から放出することです。つまり、ヘモグロビンが少ないと全身に運ばれる酸素が減って酸欠状態となり、疲れやすい、めまい、立ちくらみ、頭重感、頭痛、動悸、息切れ、顔や唇の血色不良、肩こりなど様々な症状が生じます。西洋医学では、一般的には鉄剤が処方されます。

 Bさんは、月経過多を起こす婦人科疾患もなく、貧血も慢性的な状態でした。漢方医学ではいわゆる「気血両虚(キケツリョウキョ)」という状態でしたので、「気」と「血」の両方を補う漢方薬として『十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)』を処方しました。飲むと体調が良いとの事でしたので、鉄剤によりへモグロビンの値が改善してからも半年以上内服を続けています。最近は鉄剤を飲まなくても検査値は正常との事でした。

 動悸や息切れもあるようならば、『人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)』を、さらにイライラやのぼせもあるようならば、『加味帰脾湯(カミキヒトウ)』が有効な場合があります。また、食欲もなく、「気虚(キキョ)」が強い場合には、まずは消化機能を立て直すことを目標に『六君子湯(リックンシトウ)』を用います。

 重大な疾患がないにもかかわらず貧血がなかなか改善しない、あるいは繰り返し起きてしまう場合には「腎虚(ジンキョ)」という状態である可能性があります。過労、不規則な生活、加齢などにより生じ、足腰がだるく、手足のほてりなどはよくみられる症状です。この場合には『六味地黄丸(ロクミジオウガン)』『八味地黄丸(ハチミジオウガン)』がよく用いられます。

 漢方薬は、貧血に対しては、「血」を補うだけではなく、他の機能を高めることにより、いわゆる造血作用を高めることを重視しており、ヘモグロビンの構成材料の一つである鉄を薬剤として補給し、検査値を改善していく西洋医学とは、また別のアプローチといえます。もちろん両者を併用していくことも有効ですし、むしろ私自身はそれを治療として実践しております。