『73歳Cさん。数年前より腰痛があり、整形外科に通院中。変形性脊椎症との診断で湿布や鎮痛薬が処方されており、腰痛は入浴や温めると軽快する。最近は夜間に排尿のために3~4回起きるようになり、熟睡できない。足は冷えるので湯たんぽを手放せない。口は渇く。漢方薬を試したい希望で当院に来院。』

 胃腸障害は無いということなので、Cさんには『八味地黄丸(ハチミジオウガン)』を処方して、2週間後「少し冷えは良い」との事で、現在も内服継続中です。

 『八味地黄丸』は「腎虚(ジンキョ)」(主として加齢にともなう身体機能の低下、特に腎生殖機能系および腰以下の運動機能の低下などを意味します)に用いる漢方薬で、高齢の腰部、下肢の脱力感や下肢の衰え、冷えなどがあり、排尿障害を伴う場合には良い適応です。お腹を触って、上腹部に比べて下腹部がふにゃっと軟らかく腹力が弱い状態を「小腹不仁(ショウフクフジン)」という東洋医学的な所見ですが、この所見がある場合には『八味地黄丸』は特に有効とされています。

 『八味地黄丸』に含まれる生薬の一つに「地黄(ジオウ)」があり、抗加齢効果や強壮作用の他、「血虚(ケッキョ)」(痩せてくる、栄養状態が悪くなる、皮膚がカサカサしてくる)を治療するために使われます。しかしながら、副作用として、胃排出能の低下作用があるため、胃もたれの原因になることがありますので、胃腸系が弱い方には、初めて「地黄」の入った漢方薬を使うときには、いきなり3包/日を食前という飲み方をしないで、少量かつ食後というように使ってもらいます。

 冷えが強い場合には、さらに「附子(ブシ)」を加えたりし、逆にほてりがみられるときには『六味地黄丸(ロクミジオウガン)』を使用したりします。

 加齢現象が関連するような症状は前述した「小腹不仁」症候群ともいえる所見が多く、最近話題の「フレイル(高齢者の筋力や活動が低下した状態)」や「サルコペニア」を考えたときにはまさしく「小腹不仁」を中心とする症候群そのものといえましょう。加齢にともなう下半身の衰えがあり、「小腹不仁」がみられるときには『八味地黄丸』を含めた「腎虚」の漢方薬は良い適応になると思われます。気になる方は、一度他の人に自分のお腹を触ってみてもらってはいかかでしょうか?