転居と突然の下痢|産婦人科コラム

転居と突然の下痢

2012年03月08日
 

『68歳Oさん。数年前、長年住んだ土地から、息子さんの住む北見へ転居したが、その前後から体調を崩したとの事。特に、突然起こる下痢に悩まされており、それが怖くて外出できなくなったようです。その他、食欲不振や味覚の低下、だるさ、眠気、湿疹などの皮膚のトラブルも出現し、漢方薬を希望にて来院。』

初診時は、食欲不振や味覚の異常、全身倦怠感を特に訴えていましたので、『補中益気湯(ホチュウエッキトウ)』を処方し、2回目からは「抑うつ」傾向もみられたため、『香蘇散(コウソサン)』を処方しました。しかし、疲れや食欲は若干改善したものの、下痢は変わりませんでした。

約二ヶ月の通院を通して、習い事や外出に対する予期不安が強く感じられるようになったため、『半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)』に換えてみたところ、3週間後には下痢は著しく改善し、「9割方良くなり、大分楽になった」との事。フラダンスなどの習い事や外出にも自信を持てるようになった。
その後は湿疹にさらに対応するため『柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)』も一緒に飲んでもらいましたが、経過は良好のようです。

『半夏厚朴湯』は、咽頭あたりに異常な感じがしたり、自律神経失調症などに用いる機会が多い漢方薬ですが、近年では腸管運動にも作用することが動物実験で報告があり、下部消化管症状にも応用できる可能性が示唆されています。

Oさんは原因不明の腹痛・下痢を訴えていましたが、慣れない土地での生活にうまく適応できず、その不安やストレスが背景にあったのかもしれません。同じ気剤(「気」に作用する薬)である『香蘇散』の効果が十分でなかったことから、『半夏厚朴湯』に含まれる生薬の中でも強い抗不安作用を有する「厚朴」が有効であったのでしょう。

漢方薬は「気」の異常からきたす消化器症状にはとても有効なことが多く、内臓だけにとらわれずに全人的なアプローチが大切なことを実感した症例でした。

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医療法人社団 公和会 中村記念愛成病院
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