ストレスが原因の病気(その1)|産婦人科コラム

ストレスが原因の病気(その1)

2007年05月29日
 

『58歳Mさん。中肉中背。49歳頃から不整脈に気づき、52歳のときに発作に襲われ、内科にて心臓弁膜症と診断されて治療を開始した。しかし、症状は次第に悪化し、動悸がひどくて息苦しく階段も上がれない。調子が悪いときは、膝の裏から下腿にかけて静脈が累々と浮き出て鈍い痛みが出る。薬を飲んでも満足する効果はなく、医師からは飲んでいる薬を全部止めてみようと云われたので、友人から漢方治療を紹介されて来院。』

Mさんは、来院時は前医に見放されたと思い込んでいるようでした。心臓の雑音も胸部レントゲン写真も異常ありません。下肢の静脈瘤も軽度でした。そこで、私はMさんの話をじっくり聞いて、彼女の病状に関する誤解を解く必要性を感じました。とにかく、訴えが多く、不安が強いので以前の号でも紹介した『加味逍遥散(カミショウヨウサン)』を処方しました。

2週間後、Mさんは「漢方薬を1包飲んだら、おしっこがたくさん出て、からだがスーッと楽になりました。静脈瘤も出ないんです。」とうれしそうに外来に入ってきました。
処方は変えずにこのまま飲んでもらいましたが、症状は消長を繰り返しながらも約2ヶ月でほとんどの訴えが消えました。

あとでよく話を聞くと、Mさんは「自分は末期状態」だと思い込んでいたそうです。漢方医学は特に患者さんの訴えを大事にします。

西洋医学のような客観的な検査データがなく、訴えが治療にそのまま反映されるからです。

江戸時代から明治時代にかけて活躍した「浅田宗伯」という有名な漢方医の戒めに「巫(みこ)を信じて医を信ぜざるものは速やかに辞しさるべし」という言葉があります。「医者を信頼しない患者さんは、治す自信がないので、初めから診察しない」態度は現代では診療拒否に当たるかもしれませんが、医師は患者さんの信頼関係なくして治療はうまくいかないのです。宗伯先生の態度はけっして医者の傲慢ではなく、真に患者さんを治そうという態度の現われだと思います。

「Mさんのような患者さんには、漢方薬でなくても、小麦粉でも効くんじゃない?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。プラセボ効果というものは、「偽薬」による効果ですが、漢方では良い意味でのこの効果を十分に活用しようとしています。

漢方の大家の先生の前に座るなり、「先生の顔を拝見しただけで具合がよくなりました」という患者さんがいらっしゃるようですが、こういう信頼関係こそ究極の医療なのかもしれませんね。

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