不眠と漢方薬|産婦人科コラム

不眠と漢方薬

2017年05月01日
 

世間では不眠を訴える人は約20%も存在し、やや女性に多い傾向があります。また高齢者では30~40%と頻度が高く、特に中途覚醒と早朝覚醒は高齢者に多くみられます。西洋医学的には様々な睡眠導入薬がありますが、依存性や副作用の点で受けつけない人もいらっしゃいます。

漢方医学的には、不眠は「気逆」(イライラする、のぼせ、ほてり、動悸、ゲップなど)や「気虚」(やる気がない、疲れやすい、食欲がない、日中・食後の眠気やだるさなど)といった『気の異常』と、「血虚」(貧血、顔色不良、皮膚のかさつき、脱毛、爪がもろい、目の疲れやしょぼつきなど)の『血の異常』によることが多いです。

まずは不眠のパターンから『抑肝散(ヨクカンサン)』『帰脾湯(キヒトウ)』『酸棗仁湯(サンソウニントウ)』などから処方を選びます。『抑肝散』はイライラするときの「気逆」の薬ですが、イヤなことを思い出したり、あれこれ気になったりして寝つきの悪い場合にも用います。本来、小児のけいれんや疳(かん)の虫に用いる薬で、神経の高ぶりによる怒り、歯ぎしり、チックなどの精神・筋肉の緊張、けいれん症状のある人に適しています。このタイプで、嘔気・腹部膨満感などの消化器症状がある人には、胃の湿気をとる「陳皮(チンピ)」「半夏(ハンゲ)」を加えた『抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)』の方が有効です。

『帰脾湯』は「血虚」の薬で、うとうとするだけでぐっすり眠れず熟眠感がない場合に用いますが、虚弱で疲れやすく貧血傾向があり、不安感が強い人には適しています。このタイプで、のぼせやイライラなどやや熱状があるひとには、心や身体を冷やす「柴胡(サイコ)」「山梔子(サンシシ)」の入った『加味帰脾湯(カミキヒトウ)』を用います。

『酸棗仁湯』は気力がない「気虚」の薬で、心身共に疲れきっているのに目がさえて眠れない場合に用います。疲れすぎると、かえって心や身体が軽い興奮状態になることがありますが、そのような不眠に適しています。

他に、がっちりタイプで体力があり、カッカして眠れない人には、『黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)』を用いますが、特に赤ら顔で興奮してのぼせやすく、高血圧や拍動性の頭痛がある人に適しています。また、虚弱気味でイライラして眠れないタイプで、冷え症や便秘があり、精神的不安感が強く、種々の不定愁訴を訴える人には『抑肝散』よりも『加味逍遥散(カミショウヨウサン)』の方が有効な場合があります。

漢方薬は睡眠薬ではなく、不眠になりやすい日頃の精神状態を改善するものです。すでに睡眠薬を使用している場合は、耐性や反跳性不眠の問題もありますので、すぐに漢方薬に切り替えるのではなく、漢方薬を併用しながら睡眠薬を減量していくとよろしいかと思います。

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