補腎剤とは|産婦人科コラム

補腎剤とは

2020年01月06日
 

前回の「補気剤」に続き、今回は「補腎剤」についてお話します。東洋医学の五臓という考え方の一つに「腎」というものがあります。これは西洋医学の「腎臓」とは少し異なり、さまざまなことが言われますが、特に重要な機能は「生まれながらの気(エネルギー)」を宿す点です。我々はこの気を生まれ落ちたときに授かり、日々その気を消耗しながら、気の補充を受けて生きていくわけです。つまり、「生まれるときに母親からもらった生命力(=気)」を貯蔵しているのが「腎」と考えて下さい。

しかし、長年生きていれば「腎」の機能も落ち、やがては「腎」の気も目減りしていきますから、歳をとれば誰でも「腎虚」(腎の気の不足)になっていくものです。その気が目減りしたときに「補腎」という操作が必要になるわけですが、それに用いるのが「補腎剤」です。

それでは、「腎虚」になるとどのような症状が現れるのでしょうか。第一に挙げられるのは「身体の渇き」です。この渇きがもたらすさまざまな症状への対応、渇きの軽減を図る目的が「補腎剤」に込められています。また、排尿の不具合やふらつきといった高齢者につきものの症状も「腎虚」によるものと説明されます。

例えば、高齢者に比較的よく認める「手足のほてり」という症状には、その原因は2通りが考えられます。「身体の渇き」あるいは「気うつ」(以前の号で紹介)を原因とするものです。高齢者にも最近では「気うつ」は認められますが、頻尿や口渇があれば、渇きを原因にしたものを疑う必要があります。そのような場合には「補腎剤」の投与を検討します。具体的には「冷え」があれば『八味地黄丸(ハチミジオウガン)』を、下腿に「むくみ」があれば『牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)』を、それらがなければ『六味丸(ロクミガン)』を選択します。

『牛車腎気丸』には「牛膝(ゴシツ)」「車前子(シャゼンシ)」という下肢のむくみをとる生薬が配合されています。「むくみ」があるということは「水のたまり」があるということですので、こういう箇所には冷えや疼痛、しびれなどが発生しやすくなります。そこで「牛膝」「車前子」でむくみを取り、結果として疼痛やしびれを軽減するのが『牛車腎気丸』なのです。ですから、「補腎剤」で下腿にむくみがないのに『牛車腎気丸』を使用するのは疑問が残るのはご理解いただけるでしょうか。高齢だから即「補腎剤」というわけにはいきませんのでご注意下さい。

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医療法人社団 公和会 中村記念愛成病院
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